遺産相続のもめごとで最も多い使い込み問題
遺産相続のもめごとのなかでも多いのが、預金の使い込みをめぐるトラブルです。
他の兄弟が親と別居しており一人が同居をしていた場合、その子どもが親の預金を使っていることがわかって、遺産を分けるときにもめるというのが一般的なケースです。
このような場合は話し合いをして、使い込んだ分を他の相続人に返す、相続分から使い込んだお金を差し引くなどの対処を行ってトラブルを解決します。
生前に引き出された預金は、その人が死亡した時点では存在しませんから、遺産とはみなされず分割対象にはなりません。
このため話し合いがスムーズにいかない場合は、調停に持ち込むことになります。
しかし遺産の分割対象にならないのですから、遺産分割協議として裁判所で調停をすることはできないのです。
損害賠償請求と不当利益返還請求
そこで裁判所には次の2つのうち、いずれか有効な方法を選んで手続きを行います。
1つは不法行為による損害賠償請求、もう1つは不当利益返還請求です。
不法行為による損害賠償請求とは、他人から何らかの損害を受けた場合に、相手にお金などでその損失を償うことを要求することをいいます。
不当利益返還請求とは、正当な理由もないのに他の人から利益を得た人に対して、その利益を返すように求めることです。
つまり、お金を返すように求めることに変わりはないのです。
異なるのは、請求できる期限の違いです。
不当行為による損害賠償請求は使い込みがあったことを知ってから3年、不当利益返還請求は10年と期限が決められています。
使い込んだお金をどうするのか、身内だけの話し合いで解決できないときは、調停で話し合います。
調停での結果に不満がある場合は訴訟を起こして争いますが、ここまでトラブルが深刻化するケースはまれで、調停で解決する場合が大半です。
物証が大切
調停まで持ち込む場合は、証拠がものをいいます。
例えば、父親と同居していた長男が親の預金から50万円を引き出していたケースでは、何のためにそのお金が使われたのかが争点となります。
親が入院してその費用に使った場合、病院の領収証を見せれば、そのお金が親のために使われていたことが立証されてますから、使い込みにはなりません。
したがって、その分の返還請求はできないのです。
しかしたとえ病院の費用に使ったとしても領収証がなければ信頼性が低いと判断され、長男が自分のために使ったお金と解釈されて、不当利益として返還請求がなされる可能性が大きくなります。
使い込み問題を解決するには、使ったお金がいくらなのかを割り出すことから始まって、合意のための話し合いや調停手続きなど細かな手順を取らなければいけません。
使いこんだ額や用途が100%解明される例は少なく、お互いが歩み寄って和解するケースが大半です。